校正者を悩ませるのが、「あれ、これどっちだっけ?」と、表記に迷ってしまう単語。
その代表格の一つが、「うなずく、うなづく」など、単語の途中に「じ」や「ず」が入ったものではないでしょうか。
この記事では、「あれ、どっちだっけ?」と迷いがちな単語をまとめた上で、校正者としての対処法ご紹介します。
うなずく、うなづく、違いはあるのか
まずは、「うなずく・うなづく」を辞書で調べてみましょう。
【頷く】(首肯く) ウナヅク(自五)
首を縦にふり、「そうだ/よろしい」という気持ちをあらわす。
三省堂国語辞典 第七版
たとえば、
・何かを聞かれて「うん、そうだよ」と首を縦に振る。
・許可を求められて「OK」と首を縦に振る。
そんなイメージですね。
「うなずく」「うなづく」正しいのはどっち?
結論から先に言います。
現代仮名遣い(※)において「正しい」とされるのは
「うなずく」です。
※現代仮名遣いとは
1986年、内閣告示(2010年、部分改正)。
長い間行われてきた「歴史的仮名遣い」に替わるものとして、1946年に内閣告示された「現代かなづかい」の規範性をゆるめ、部分的に修正を施したもの。
一方で、「うなづく」も間違いとは言い切れません。
上記の三省堂国語辞典の引用部分にも「ウナヅク」と記載されています。
これは「うなづく」が、「歴史的仮名遣い」であることを表しています。
したがって、
ということになります。
この判断が意外と難しい!
先日、ある雑誌をパラパラめくっていた時のこと。
記事の見出しに「誰もがうなづく『好感コーデ~(一部省略)~』」とありました。
雑誌のテイストや文章の文脈から考えると、ここはあえて歴史的仮名遣いにする必要があるのか?と悩ましいところです。
他の部分が現代仮名遣いで書かれているのに、ここだけ「うなづく」となっている。
さらに、歴史的仮名遣いにする特別な理由が見当たらないのであれば、「つい、うっかり」の可能性が高いと言えます。
校正者としては、
と言う対応がよいのではないでしょうか。
「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」。迷いがちな現代仮名遣い
「うなずく」以外にも、「あれ、どっちだっけ?」と表記を迷ってしまいがちな単語はたくさんあります。
でも、原則を覚えてしまえば、大丈夫。
「じ、ぢ」「ず、づ」の使い分けには、ある一定のルールがあります。
詳しくは、私が校正を学んだ日本エディタースクールの教材、「標準 校正必携」でも説明されていますが、概要を以下にまとめておきます。
これが原則。 現代的仮名遣いでは、「ぢ」「づ」を使うことは少ない
例:おぢいさん→おじいさん(◯)、まづは→まずは(◯) など
確かに、「おぢいさん」と書くと、一気にレトロな雰囲気になりますね ^ ^
例外として「ぢ」「づ」を使うケース2つ
単語内で「ぢ」「づ」を使用するケースも2パターンあります。
(1)同じ音の連呼によって生じた「ぢ」「づ」
例:ちぢむ(縮む)、つづみ(鼓)、つづら、つづく(続く) など
※「いちじく」「いちじるしい」は例外
(2)2つの語がくっついて生じた「ぢ」「づ」
例:はなぢ(鼻+血)、まぢか(間+近)、にいづま(新+妻) など
例外の、さらに例外
上記(2)にはさらに例外があり、以下の語は、現代語の意識では一般に2語に分解しにくいなどとされ、「じ、ず」を用いて書くことが本則とされています。
例:せかいじゅう(世界中)、いなずま(稲妻)、さかずき(杯・盃) など
覚えきれない! そんな時は…校正者としての対処法
「例外のさらに例外」とかあるし、全部覚えきれましぇん…
正直、私も全て自信をもって「全部覚えてます!」とは言い切れません。
でも、校正者として、「どっちだっけ?」の答えは、全て覚えていなくても大丈夫だと思うのです。
いや、むしろ、自分の力を過信した結果、誤りをスルーしてしまう方が問題ではないでしょうか。
校正紙を読んでいて、「これは間違えがちな言葉だぞ」というセンサーが働けばOK。
「間違えやすい言葉センサー」さえ稼働してくれれぱ、あとは辞書などで「原則の仮名遣い」を、都度確認していけばよいわけです。
そうしていくうちに、「正しい方の単語の字面(じづら)」が自然と目に焼き付き、辞書などで確認する頻度も、きっと減っていくと思います。
「迷った時は、都度確認!」が校正者の合言葉。
私も「間違えやすい言葉センサー」の感度が上がるよう、学びを続けていきたいです。
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毎日新聞・校閲グループ著。
事例写真も豊富なので校正実務に役立ちます。
上から目線ではなく、 「人は誰でも間違える」を前提に書かれているところに共感しました。